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「良い先延ばし」と「悪い先延ばし」

現代の我々は、産業革命とプロテスタントの労働倫理がもたらした、効率性への異常なほどのこだわりに囚われているが、そのずっと前は、先延ばしすることのメリットが文明の中で認められていたのだ。

ORIGINALS-誰もが「人と違うこと」ができる時代/アダム・グラント P161(PART4 賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ)

先延ばしと聞くと、だらしのない悪い印象がありますが、全ての先延ばしが悪いわけではないんですね。
では、良い先延ばしとはどんな時なのか?
それは、創造性が求められる時に先延ばしは良い効果を発揮します。

先延ばしは創造性の源

創造性、つまり良いアイデアを閃くにはそのネタを放置することで、良いアイデアが閃きやすくなるということなんです。
創造性を育むロングセラー「アイデアの作り方」でも、ネタを放置してアイデアを閃く方法を提唱しています。

関連記事:アイデアを閃く5つのステップ

そして、この先延ばしと創造性の相関関係は科学的に証明されています。

先延ばしの実験

大学のキャンパス内で、コンビニがあった跡地にできる新しい事業の提案書をつくよう、学生たちに指示しました。
早々に課題に取り掛かった時に出てくるアイデアは、「別の新しいコンビニを導入する」というようなありきたりなアイデアばかり出る傾向がありました。
次に、ランダムに選んだ学生たちには課題を先延ばししてもらいました。
その時に先延ばしした方法は、「マインスイーパー」や「ソリティア」などのゲームで5分から10分ほど先延ばししてもらいました。

結果、先延ばしをしたグループの方が創造性が高く、特に5分程度先延ばしした学生の方が良いアイデアを閃きました。

ちなみに、最終的な提案書を第三者が評価したところ、やはり先延ばししたグループの方が評価が高く、先延ばししていない学生と比べて28%も創造性が高いと評価されました。

この結果に対して、ゲームで頭が刺激されたから創造性が高まったのでは?
または、ゲームをすることで、頭を休める事ができたのでは?
という、可能性も疑わしいですが、これについても実験で結論が出ていて、
ゲームが創造性を刺激するわけでも、頭を休める事ができたわけでもない。という結論が出ています。

課題を知らされる前にゲームをした場合の創造性を検証したところ、より斬新な提案が出ることはありませんでした。

つまり、よりユニークな、創造性の高いアイデアを閃くには、頭の片隅に課題のことを置きながらゲームなどをして、先延ばしする必要があるのです。

情熱という起爆剤

この実験が実社会にも当てはまるかどうか。それを確かめるべく、研究者たちは韓国の家具店からデータを収集しました。

その結果、必ずしも先延ばしが創造性の起爆剤になるわけでない事がわかりました。

どういうことかというと、
データを精査したところ、やはり、いつも先延ばしにする従業員は、より多くの時間を思考することに費やしていて、上司からは創造性が極めて高いと評価されていました。
しかし、大きな問題を解決する意欲を持たない、つまり、情熱を持たない従業員がしていた先延ばしは、ただ問題を先送りしただけで創造性の高いアイデアが閃くわけでもなく、問題解決が遅れただけでした。

この結果からわかることは、無闇に先延ばしすれば素晴らしいアイデアが天から降りてきて、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクの仲間になれるということではなく、
何かを良いアイデアを閃くのに最低限必要なことは「情熱と時間」だということ。

閑話休題-16年の先延ばし

もしあなたに、情熱の時間が無限にあれば素晴らしいアイデアを作り出し、歴史に名を残せるかもしれません。
例えば、「モナ・リザ」を描いた、レオナルド・ダ・ヴィンチのように。

レオナルド・ダ・ヴィンチは1503年から「モナ・リザ」を描き始め、何年かの間は描いてはやめるということを繰り返したのちに、「モナ・リザ」を放置しました。
そして、亡くなる直前1519年になってやっと「モナ・リザ」を完成させました。

16年の間、レオナルド・ダ・ヴィンチは何をしていたのでしょうか?
レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、画家、彫刻家、建築家、技師(軍事、土木、治水)、発明家でした。
この彼の経歴が示しているように、彼は様々なことに時間を割いてきました。
つまり、彼は16年間様々な分野に寄り道をして「モナ・リザ」を先延ばししていたのです。

そして、この寄り道がレオナルド・ダ・ヴィンチの作品にとって欠かせない知識となりました。
例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチは九面を照らす光を研究していたお陰で、「モナ・リザ」さらには、「洗礼者聖ヨハネ」の絵画で立体感を描き出す事が出たのです。

良い先延ばしは育て、悪い先延ばしは駆逐する

良い先延ばしとは、創造性が必要とされる時。という事がわかりました。
では、悪い先延ばしは?というと言わずもがなですが、それ以外のこと、つまり、単純に生産性が求められる時です。

僕らが悪い先延ばしをしている時の仕事のツケは1年間で20日分の無駄だと言われています。
アイデアを生み出す先延ばしは良いアイデアを生み出すかもしれませんが、ただの先延ばしは僕らにはにも恩恵を与えません。それどころか損失しかありません。
ならば、悪い先延ばしは早々に駆逐、つまり片付けなければなりません

悪い先延ばしを駆逐する三つのテクニック

今までこのブログでは、先延ばしをどうにかするテクニックを紹介してきました。
その中から、3つほど簡単に紹介します。

if-then プランニング

これは最も簡単で最も効果があると科学的に証明されたテクニックです。
どうするかというと、

もし(if)Xが起きたら、行動Y(then)をする」

と前もって決めておくだけです。

例えば…

  • 作業を先延ばししそうになったら、5分だけ手をつけてみる
  • 困難な仕事だな、と思ったら、達成すべきことを細かくリスト化する

といった形で、物事と行動を予め結び付けておくテクニックなんですね。

関連記事:if-thenプランニング始めました。

Why-What Thinking

僕らの思考は、「なぜ」これをやるのか?という思考よりも、「何」をやるのか?という思考の方が達成率が高まるんですね。
この理由は、「なぜ」は理由を探しやる気、モチベーションを高める効果があります。しかし、やる気やモチベーションだけでは仕事は終わりませんよね。
そこで、「何」を考えることで、具体的に自分が取り掛かるべきタスクを洗い出して、目的を明確化することで先延ばしを防ぎ、達成率を高める事ができます。

具体的なステップとしては、

  1. 『先延ばししてしまっているタスク』や、『やる気が出ないタスク』をピックアップ
  2. ピックアップしたタスクに「なぜ」の質問をぶつける
  3. ピックアップしたタスクを完了させるには「なに」をすべきか考える

という、3つのステップで構成されています。

関連記事:先延ばしを防ぐ「Why-What Thinking」

報酬感覚プランニング

このテクニックは僕のいちばんのお気に入りで様々なテクニック盛り込まれています。
そして、このテクニックは長期的な計画を達成するための一つ一つのステップを確実に達成できます。
先に紹介した2つのテクニックより手間はかかりますが、今まで色々試した中で一番効果的なテクニックです。

具体的な方法は長くなってしまうので、関連記事から見てもらいのですが、簡単に説明すると、
達成したい長期目標を「達成したい理由」「達成した時のイメージ」などを具体的に考え、目標達成から現在までにやるべきタスクを逆算してサブゴールを設定して、最も期限の近いサブゴールを完了するためのタスクを設定する。
そして、設定したタスクを毎日達成できるように、「達成までの障害」「その対策」などを想像する。というテクニックです。

このテクニックの素晴らしいところは、僕らの本能的な思考に働きかけるようにデザインされている。という事です。

本能的思考ってなんぞや?そもそも、説明がわからん。など、気になる方は下のリンクへ飛んでいただけるとわかるかと思います。

関連記事:本能を操り達成率を高める「報酬感覚プランニング」

早々に手を付ける

アイデアを生み出すのに先延ばしは有効ですが、着手そのものを先延ばしをしてはもともこもありません。
歴史に“もし”はありませんが、もし、レオナルド・ダ・ヴィンチが亡くなる直前まで「モナ・リザ」に着手しなかったらこの世に「モナ・リザ」は存在する事なく、描こうとしたキャンバスか、その下書き程度しか残らなかったでしょう(それはそれで価値がつくでしょうが)

つまり、良い先延ばしも悪い先延ばしも共通して言える事があります。
それは、「早々に手を付ける」という事です。
早々に面倒な仕事に手をつければ、つまらない仕事から開放されるのは早まります。
早々に新しいアイデアの構想を始めれば、締め切りまでの時間が長くなります。
だから、何はともあれ手をつけましょう。そもそも、つまらない単純な仕事なのか、創造性が必要とされる仕事なのかは手を付けてみなければわからないのですから。

参考書籍

アダム・グラント:独創的な人の驚くべき習慣

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