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人工肉?培養肉?いいえ、“クリーンミート”です。

クリーンミートは今後10年20年で、牛や鶏を飼育するよりも安く、大量に生産されるようになるだろう。
ステーキが食べたくなったら、牛を一頭丸々育てて殺す代わりに、ステーキを育てるだけで良くなるのだ。

クリーンミート/ポール・シャピロ P99(序文)

ここ数年で注目されている技術「培養肉」別名「クリーンミート」の始まりから、現在までの軌跡が描かれている「クリーンミート-培養肉が世界を変える」がなかなか興味深い本でした。

そもそものテクノロジーとして面白いのですが、この培養肉が及ぼす世界への影響が特に興味深かったです。
本当に世界を変える可能性しかないです。
何を変えるって、食料問題はもちろんのこと、地球温暖化や水問題などの環境問題を変える可能性を秘めているのです。

培養肉?クリーンミート?

読んで字の如し培養肉は、肉の細胞を培養器で培養して作った肉、つまり、動物を殺さずに食用肉を生み出す技術です。
そしてこの技術はSFの世界や未来予想ではなく、すでに実現している技術なんです。

33万ドルから1200ドルへ

培養肉が初めて人の口に入ったのは2013年ごろ、その時の制作費は、なんと33万ドルで日本円にして3500万以上の費用がかかっていました。
しかし、2017年には1200ドルまでコストが下がっています。
10万円を超えるコストですが、技術の絶え間ない発展でコストは下がり続けています。
あるところではん2021年には培養肉を使ったハンバーガーを400円台で販売することを計画しているます。
そのくらい培養肉のコストが抑えられることに期待が寄せられています。

最も清潔な肉

冒頭で、「培養肉」別名「クリーンミート」と書きましたが、なぜクリーンなのか?
それは、腸菌汚染のリスクがない本当にクリーン、つまり清潔な肉なのです。

従来の方法では、家畜を処理場で鏖殺する工程で、家畜から排出されてしまう糞便汚染が原因で、大腸菌やサルモネラ菌などの腸菌汚染のリスクがあります。
ちなみに、サルモネラ感染症による死者はアメリカ合衆国内で年間140万人です。
残念ながらサルモネラ感染症に対するワクチンは未だに存在しません。
そんな、腸菌汚染のリスクのない清潔な肉、それが「クリーンミート」なのです。

もちろん僕らが普段口にする食肉も細心の注意を払われて卸されていますが、処理の工程上どうしても汚染リスクが付き纏います。

しかし、クリーンミートであればそのリスクはありません。
なぜなら、生きている家畜から、ほんの少しの細胞を摘出するだけなのです!

現実化する奇跡

「必要なのは小さじ一杯分ほどの、ほんの小さな筋肉変だった」。
ポストは親指と人差し指の間を2センチほど開ける仕草をした。

クリーンミート/ポール・シャピロ P99(第3章 グーグル創始者の支援を武器にする)

理論上は、1頭の牛から2センチ程度の細胞片をとるだけで、40万頭の牛を飼育するのと同等の牛肉を製造する事ができるのです。
まるで、七つのパンと少しの魚を増やし四千人の人々に食べさせたイエス・キリストの奇跡のような世界です。

この技術がさらに発展し一般に普及されれば、家畜化された、10万頭の豚、15万頭の牛、500億羽の鶏たちが、1万年の時を経て家畜というシステムから開放され、僕らは増え続ける人口に対する食料問題を解決する事ができる。

クリーンミートによる恩恵は、食料問題だけではない。環境問題にも好影響を与える事ができるのです。

気候変動を救う

家畜の全てをクリーンミートに置き換えるだけで、地球温暖化と水問題を解決する事ができます。

ステーキは地球を暑くする

地球温暖化の主な原因を知っていますか?
主に、発電で25%、農業畜産業で24%、製造業で21%、交通・運輸で14%、ビル管理で6%、その他で10%です。
そう、農業畜産業は24%もの割合で、火力発電などの発電25%に匹敵するほどの割合を占めているのです。

なぜ農業畜産業はそんなに地球温暖化の原因になっているのか?
それは、家畜、特に15億頭の牛の「おなら」や「げっぷ」が原因なのです。

牛のおならとげっぷが、地球温暖化を加速させる──。突拍子もなく聞こえる説だが事実だ。牛1頭がげっぷやおならとして放出するメタンガスの量は、1日160〜320リットルにも上る。農場経営者にメタンガス排出の削減を義務づける法案も登場するなか、研究者たちは牛たちの「減ガス化」を目指して、海藻飼料から遺伝学まであらゆる可能性を探り続けている。

WIDER/牛の「おなら」と「げっぷ」を退治せよ──科学者たちの大真面目な温暖化対策

もし15億頭の牛をクリーンミートに置き換える事ができれば、地球温暖化の4分の1の原因を改善する事ができるのです。

さらに、クリーンミートは水問題にも影響があります。

「見えない水」に依存する日本

実は我が国日本は「見えない水」を年間800億m3を輸入しています。
立方メートルで表されるとピンと来ないと思いますので、1m3=1000Lなので、800億の後ろにゼロを3つ足しましょう。
(環境省・特別非営利活動法人日本フォーラムで算出 2005年)

さて、「見えない水」とはなんでしょうか?
それは、農業や畜産物などを生産するのに消費される水を積算したものです。

例えば….
スーパーに並ぶ鶏肉のパック1個当たり生産するのに必要な水は約3800リットル消費します。タンクを積んだ給水車に匹敵しますね。
卵一個であれば、190リットル。家庭用のお風呂がいっぱいにできます。
牛肉1キロの場合は大変です。餌となるトウモロコシ1キロ生産するのに約1800リットルがまず必要になります。そして、牛肉1キロ当たり必要な水はをの2万倍、つまり、3600万リットルです。
25メートルプールをいっぱいにするのに必要な水は約50万リットルなので、25メートルプール72個分の水を消費するのです。
小学校が夏の間に毎日プールの水を満たす事がレベルですね…

つまり、クリーンミートは莫大に消費される水の量を抑える事ができ、それによる水汚染も大幅に軽減できるのです。

培養肉がもたらす未来

培養肉は食肉だけではなく革製品や牛なしで牛乳を作るベンチャー企業まで現れています。
さらに、肉質をカスタマイズして健康的な肉、例えば、魚から摂取できるオメガ3などを加えた肉を作り出す研究などもされています。

まだまだ発展途上の分野ですので、今生産できるのは実は挽肉程度の肉。
なので今のところハンバーグやミートボールくらいしか作れないのです。
理由としては、肉が厚くなってしまうと、奥の方まで栄養分を送れずに腐っていってしまうからです。
しかし、この問題が解決されれば本当に僕らはステーキを育てる時代がくるでしょう。
これは革新的で破壊的なイノベーションです。

技術が発展して安価に様々な肉を作れるようになれば、多くの人が培養肉を選ぶようになり、今のように15億もの牛を飼育する必要がなくなり、それらの餌となるトウモロコシを育てる広大な土地も不必要です。
培養肉は既存の畜産と比べて、1%の土地と4%の水さえあれば作れてしまうのです。
結果、今までの畜産業が退廃していきます。

しかし、イノベーションによる既得権益の破壊は歴史の常です。
蒸気機関による工業の発展の結果、手作業は廃れました。
コンテナというタダの箱による運輸の発展の結果、港で積荷をおろしたり分別する仕事がなくなりました。
そのお陰で、僕らの世界はここまで発展しました。既得権益だけではなく環境を破壊しながら。

だから、ここから先の発展は地球を守るイノベーションが必要です。
培養肉は地球を守るイノベーションの一つとして、僕らにちょっとマシな未来を作ってくれるのではないかと思います。

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