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好きを仕事にしない生き方―好きを仕事にしたって幸せになれるわけじゃない

たまらなく好きなことを見つけてください。これは仕事についても恋愛についても同じです。仕事は人生の大きな一部であり、そこから深い満足を得るには心から最高だと信じられる仕事につくしかありません。そして偉大な仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することです。もし好きな事がないなら探し続けてください。

スティーブ・ジョブズ

2005年にスタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが語った有名なスピーチの一説です。
多くの人々がこのスピーチに心を打たれ、「好きな事」を仕事にしようとしたのではないでしょうか。

しかし、実際のところ、「好きな事」を仕事に選んでも僕らは幸福にはなれないのです。

面白い事に、スティーブ・ジョブズ本人は好きでアップルを立ち上げたわけではないのです。
ジョブズはインドに修行に行くほどスピリチュアルの世界が好きだったのです。
では、なぜアップルを創業したのか?それは、エレクトロニクスの世界は楽して金儲けができる事、そして、ウォズニアックが発明した「アップル1」にビジネスの匂いがしたからなのです。

結果的にエレクトロニクスの世界を好きになったのか、それとも稼げるからその世界で活躍し続けたのかはわかりませんが、少なくとも、ジョブズは最初から好きを仕事にしていたわけではないのです。

「好きを仕事に」の不都合な事実

ジョブズのスピーチに心を打たれる理由は、日本人の多くが好きを仕事にしていない人ばかりの社会だからでしょう。

世界的な調査でもこの事実は明らかになっています。
193カ国の企業に行った調査によると、「熱意を持って仕事に取り組んでいる」と答えた日本人は全体の6%だけでした。
そして「やる気がない」と答えたのは70%にも登っており、この数字は、世界で132位の最下位クラスでした。
この状況を肌で感じている若者たちが好きを仕事にしようと考えてしまうのもわかります。

ところが、好きを仕事にすれば幸福な人生が待っているとは限らないのです。
多くの職業研究によると、好きなことを仕事にしようがしまいが、最終的な幸福度は変わらないという結果が出ています。

好きなことを仕事にする人は本当に幸せなのか?問題

2015年にミシガン州立大学が「好きなことを仕事にする人は本当に幸せか?」というテーマで大規模な調査を行いました。
調査内容は、数百を超える職業から聞き取り調査を行い、仕事の考え方が個人の幸せにどう影響するのか?について調査しました。
研究チームは被験者を仕事に他する考え方を「適合派」と「成長派」の2つに分けました。

  • 適合派:「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ。
    「給料が安くても満足できる仕事をしたい」と答える事が多い。
  • 成長派:「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ。
    「そんなに仕事は楽しくなくても良いけど給料は欲しい」と答える事が多い。

満足できる仕事を求める方(適合派)が、お金目的(成長派)よりも幸せになれそうに見えます。
しかし、適合派の幸福度が高いのは最初だけでした。
1〜5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアなどのレベルは『成長派』の方が高かったのです。

研究チームは、「適合派は自分が情熱を持てる職を探すのは上手だが、実際にはどんな仕事も好きになれない面がある」といいます。
適合派の幸福度を下げる原因は主に、自分が好きな事と実際の仕事の業務にギャップがある事で、このギャップが大きければ大きい人ほど、「想像していた仕事と違う」と感じてしまします。
そして「この仕事が本当に好きだろうか?」という疑問が生まれ、幸福度を下げてしまいます。

一方、成長派は仕事への思い入れがない分、実際の業務にたいして「まぁ、こんなものだろう」と割り切って仕事ができるのです。

好きを仕事にすると長続きしない?問題

オックスフォード大学が「好きを仕事にしたほどの長続きしない」という結論が出た研究を行っています。

北米の動物保護施設で働く男女にインタビューを行った調査で、研究チームは被験者の働きぶりを3つのグループにわけました。

  • 仕事を好きに派:「自分はこの仕事が大好きだ!」と感じながら仕事に取り組むタイプ
  • 情熱派:「この仕事で社会貢献するのだ!」と思いながら仕事に取り組むタイプ
  • 割り切り派:「仕事は仕事」と割り切って日々の業務に取り組むタイプ

その後、全員のスキルと仕事の継続率を確かめたところ、最も優秀だったのは「割り切り派」でした。

有意義な仕事とは

「好きを仕事に!」というフレーズはとても耳障りがよくて、ポジティブな気持ちで職業選択に臨むことができますが、その実態を調べてみると、「好き」は仕事に良い影響をもたらさない。仕事は仕事として割り切るのが一番メリットがある。ということがわかりました。何とも味気ないですね。
それでも、人生の大半を占める仕事を少しでも有意義なものにするにはどうすればいのか。
それは、『情熱とスキルの交差点』を見つけることです。

つまり、その仕事にやりがいをもって取り組むことができて、なおかつ自分の能力を存分に発揮できる。ということです。
そういった仕事を見つけることができれば、少ない力で大きな成果を出すことができますし、仕事によって生活は豊かになり、素晴らしいポジションに就けるようになります。

とはいっても、先ほどの調査結果を踏まえると、好きでもない仕事を仕事と割り切りながら情熱を向けなければならない。という話になり、そんなところに情熱は生まれない。と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
情熱は、「自分がどれほど努力を注いだか」によって決まるのです。

努力と天職

2014年にロイファナ大学が多数の起業家にアンケートを行い、
「今の仕事をどれだけ天職だと思っているか」を尋ね、「仕事に投入している努力の量」「毎日どれだけワクワクしながら働けているか」といったことをチェックしました。

その結果、今の仕事に対する情熱の量は、先週に注いだ努力の量に比例していた。そして、過去に注いできた努力の量が多くなるほど、現時点での情熱の量も増えていた。

さらに、わかったことは、被験者の中で、最初から自分の仕事を天職だと考えていた人はほとんどいませんでした。多くの場合は、最初のうちはなんとなく始めた仕事だったけれど、努力を注ぎ続けるうちに情熱も高まって、結果的に天職になったという人がほとんどでした。

つまり、情熱はあらかじめ持っているものではなく、やっているうちにどんどん内側から湧き出てくるものなのです。
だから、仕事に過度な期待をせずに、仕事は仕事と割り切ったり、仕事の中にやりがいを見つけたりすることでその仕事に対しての情熱が生まれてきます。

「誰よりも得意」よりも「比較的得意」

スキルも言ってしまえば後から付いてくることの方が多いいでしょう。
逆に、自分はこれが得意だ!と意気込んでその世界に入ってみると自分よりももっと得意な人達に打ちのめされてしまいます。
そうすると、自分の能力に期待ができずにその仕事への情熱を産むために労力を注ぐ以前の問題になってしまいます。

だから、自分は何が一番得だろうか?と考えるよりも、自分のほかの能力に比べて何が得意だろうか?と誰かと比べて得意なことを見つけるよりも、自分の持っている能力を比べて、自分の中で比較的得意な能力を見つけることが大事です。

そして、自分は何が本当に得意なのかは、実際にやってみないと本当のところはわかりません。
やってみたら意外と得ないことが他にもあった。なんてこともあるかもしめません。

フロントガラスではなくバックミラーで見る

仕事を選ぶ上では、好きを仕事にするよりも、情熱を生み出すための労力を注ぎ続けることができるか?そして、その仕事は自分が思う比較的得意な能力を発揮できるだろうか?ということが重要だということがわかりました。

結局。労力を注ぎ続けることができるか、本当に得意かどうかは、実際にやってみないとその仕事が自分に合っているかはわからない。という月並みな結論なのです。

ほとんどの出来事は、後になって明確になっていきます。自分にって良いものかどうかは走ってみないとわかりません。
人生もキャリアもフロントガラスで見据えるのではなく、バックミラーで見ると辻褄があってきます。

目の前の道のその先がどこに続いているかを考えていても仕方がありません。そんな心配よりも、今この瞬間目の前に続く道を歩き続けることができるかどうか。問い事のほうが重要です。そして、自分が今の道を進んでいることが自分にとって良いことかどうかは、進んでみないとわかりません。

だから、自分の仕事をよいものにしたいのであればその時の「好き」に惑わされず、自分の労力を注ぎ情熱を生み出せるか仕事であり、自分の中で比較的得意な能力を生かせる場所を、実際に働きながら作り上げていくことで、自分にとって最適な仕事、つまり、適職になるのです。

参考書籍

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