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幸福を最大化する「科学的な適職」

好きなことを仕事にしよう。安定した業界を選ぼう。フリーランスこそ思考の働き方だ。スキルアップできる会社に入ろう。自分だけの強みを生かそう。コモディティ化しない職業が最高。
世の中には、様々なキャリアアドバイスが存在します。いずれの感あげ方にも一定の説得力があり、どれに従うべきか戸惑ってしまう人は少なくないはずです。
が、これらのアドバイスが問題なのは、その大半が個人の経験や嗜好にしか基づいていない点にあります。

科学的な適職/鈴木祐 P6(はじめに)

誰もが一度は適職という概念を考えるでしょう。
果たして今の仕事が自分にとって適職なのか。もっといい仕事があるんじゃないだろうか。 そんなことを思いながら、就職や転職をして一喜一憂する。
そんな、誰も教えてくれない適職という概念を定義し、科学的にその適職にたどり着く思考を磨く本。

もし、あなたが今の仕事に満足している人なら、きっとこの本は読まなくてもいいでしょう。
逆に、今の仕事に何かしらの不満があったり、転職を考えてるのであれば強く勧めたい一冊です。

本書を読んでて一番驚いたのが、好きを仕事にする事や、給与で選んだ仕事は適職にはなりえない、ただの幻想にすぎないということ。
そんな幻想から目覚め、仕事を適職たらしめる要素に焦点を当て、自分にあった適職にアプローチするのが本書の目的。

徹底されたエビデンス

本書を執筆するにあたり、これまで筆者がサイエンスライターとして読了してきた10万本の科学論文と、600人を超える海外の学者や専門医に行ったインタビューから特に職業選択や人間の幸福や意思決定に関するものをピックアップ。さらに追加の調査として、組織心理学や経済学などのジャンルから国内外を問わず数千の研究論文を集め、人間の幸福や意思決定に詳しいエキスパート約50名に「適職を選ぶポイントとは?」と言った質問を重ねました。

科学的な適職/鈴木祐 P30-31(序章 最高の職業の選び方)

パレオな男

筆者である鈴木裕さんはなかなか面白い方で、16歳の頃から趣味で科学論文を読んでいて、年間5000本もの論文を読んでいる論文オタク。
本業はライター兼編集者で、今までに100冊ほど上梓しているとか。
そして、そんな本業の傍ら「パレオな男」というブログを開設していて、身体機能や脳機能に関する健康や心理学等を様々な論文から紹介しています。
ちなみに、「パレオな男」は「パレオダイエット」という狩猟民族的なダイエットの「パレオ」から来ていて、 著者がパレオダイエットで、「デブ、アレルギー、うつ状態」から抜け出したことから。

最近では、本書以外に集中力に関する本や、体調に関する本を上梓していたり。 企業とサプリメントを出してたり、メンタリストDaiGoから論文等のリサーチを請け負ってたり。 と、様々な活躍をしている筆者。

そんな、経歴で得た10万を超える知見と、さらなるリサーチによる5000を超える論文、そして専門家や識者へのインタビュー記事から「適職」へのアプローチが導き出されている。
つまり、本書は現時点で最も科学的な「適職」の探し方の本なのです。

幸福への目覚め

「適職」と言うと一般には、単に「自分の才能が発揮できる仕事」や「好きなことができる職場」のようなイメージがありますが。本書はこれらの定義は採用しません。

科学的な適職/鈴木祐 P31(序章 最高の職業の選び方)

科学的な適職とは

本書で言う「適職」とは「幸福を最大化してくれる仕事」を指しています。
驚いたことに、その幸福を最大化してくれる要因に「好き」や「適正」などは一切関係ないのです。
だから、「あなたはこのタイプだからこんな仕事が適職です」なんて適正テストのようなことは本書には一切かかれていません。
ではどうやって適職を探すのか?その前に、知っておかなければならないことがあります。

そもそもなぜ僕らはキャリア選びに失敗してしまうのでしょうか?

プレインストールされたバグ

往々にして、僕らのキャリア選びの失敗には共通の原因があります。
キャリア選びの失敗のうち70%は「視野狭窄」が原因なのです。

「視野狭窄」は人間の脳に予め備わっているバイアスと呼ばれるバグが引き起こしています。
それによって、僕らの視野は狭まり、正確な意思決定の能力が下がってしまっているのです。
それに加え、そもそも人間の脳は、複数の未来の可能性を処理する能力が発達していないという事実。

結果、そもそもの能力不足とプレインストールされているバグのお陰で、様々な意思決定の精度を下げてしまっている事が、僕らのキャリア選びを失敗させる大きな原因だったのです。

そんな持って生まれた悲しき能力を踏まえたうえで、正しく適職を選ぶにはどうすればいいのか?
それが、筆者が提唱するAWAKE戦略なのです。

AWAKE戦略

「AWAKE戦略」とは筆者が提唱する、5つのステップで構成された適職探しへの方法 。

1.Access the truth–幻想から目覚める
2.Widen your future–未来を広げる
3.Avoid evil–悪を取り除く
4.Keep human bias out–歪みに気づく
5.Engage in your work–やりがいを再構築する

全ての頭文字をとってAWAKE戦略 視野狭窄から”目覚める”戦略ということですね。

ステップの流れをざっと説明すると、仕事選びで必ず考える「好きを仕事にする」とか「給料で選ぶ」などは幸福を最大化してくれない。ただの幻想だということに気づく
そんな幻想で狭まった世界から抜け出し未来へ視野を広げる、幸福度を最大化してくれる要因を知る。
仕事をする上で、あなたに悪影響を及ぼす要因を知り、取り除くか避ける
あなたの仕事選びの際のバイアスに気づくために4つのワークで、正確な意思決定を目指す。
そして、仕事へのモチベーションを「ジョブ・クラフティング」というワークで再構築し、その仕事をよりよいものへと仕上げる。

赤い錠剤か、青い錠剤か。

You take the blue pill – the story ends, you wake up in your bed and believe whatever you want to believe. You take the red pill – you stay in Wonderland, and I show you how deep the rabbit hole goes.

青を飲めば、ここで終わる。ベッドで目覚め、あとは好きに。赤を飲めば、このまま不思議の国の正体をのぞかせてやろう。

映画「マトリックス」字幕より

切っても切り離せない人生の一部である「仕事」というものから、あなたの幸福を考えるのであれば、一読する価値は十分にあるでしょう。
けれども冒頭で言った通り、今の仕事に一切の不満がなければ本書は必要ないですし、 わざわざ幻想から目覚めることが絶対なわけではないでしょう。

本書は、キャリアを目指して燃え滾っている人に冷や水をぶっかけるような本ではなくて、 今の仕事に何かしらの不安や疑問を持っている人の狭まった視野を広げ、 今の価値観をもとに、幸福を最大化してくれる仕事について考える切っ掛けと手段を与えてくれる本。

実際に、AWAKE戦略のワークに従って自分の状況を点検してみると、悪い要因があれども、良い要因もそれなりにあった。なんてことになるかもしれない。
歪みや悪に気づいたからと言って、「じゃあやめよう」と、 すっぱり辞めてしまうのもなんだかな。と思うし、そんな風に辞めれる人もいないでしょう。
だから、やりがいを再構築する「ジョブ・クラフティング」で仕事に対するモチベーションをコントロールしながら、可能な限り歪みや悪を是正して、未来を広げる要素を増やしていければいいのではないかな。

とは言えども、気づいたらまた視野狭窄に陥っている可能性だってあるから、そうならないように、適度に「歪みに気づく」ワークを続けて、「どうにもならないな」と、思ったときに意識を外に向けて、新しい世界で適職を探すのがいいのかな。

多くの人は職業選択の場面ですら驚くほど視野が狭くなります。逆に言えば、これから本書がお伝えしていく”科学的に正しい仕事選びの考え方”を実践さえすれば、「キャリア選択の失敗」の確率は確実に減らせると言えるでしょう。

科学的な適職/鈴木祐 P24-25(序章 最高の職業の選び方)

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