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未来のテクノロジーとの付き合い方「ドラえもんを本気でつくる」

日本人が人工知能と聞けば「ドラえもん」を思い浮かべることの方が多いんじゃないかな。と勝手に思っております。
そんな、ドラえもんを本気で実現させようとしている研究者が日本にはいます。
そして、「なぜ、ドラえもんを作るのか?」「どうやってドラえもんを作るのか?」という、自身の研究テーマについて綴られた一冊「ドラえもんを本気でつくる」

AIの目まぐるしい進歩に、僕らの仕事が奪われるのではないか、と言われている世の中で、筆者の「ドラえもんを作る」という研究は仕事を奪うのではなく、テクノロジーと助け合って生きていく。という未来が甲斐見えます。

「ドラえもん」という存在が世界を幸せにする。

ただし、「いつか」ドラえもんができた時に多くの人が幸せになる、というのでは遅いと思っています。ドラえもんを作る営みの中で、人を幸せにすることを実現していきたいのです。たくさんの人にドラえもん作りに関わってもらい、ドラえもん作りのプロセス自体が多くの人の幸せに繋がるようにしたいと考えています。

ドラえもんを本気でつくる/大澤正彦 P22,23(序章 人を幸せにする心を持った存在)

筆者は元々ドラえもん好きで、子供の頃から「ドラえもんを作りたい」と夢見て、大学生の頃に本格的に「ドラえもん」を作る研究を開始して、単なるロボットではなく、ドラえもんとのび太の関係のように、人ととことん向き合うことができる存在を作ろうとしています。

そして、AIやHAIというシステムをもとにミニドラ作りに取り組んでいます。

ヒューマン・エージェント・インタラクション(HAI)

筆者の研究は、HAIというテクノロジーを用いて、ドラえもん制作に取り組んでいます。
HAIとは「ヒューマン・エージェント・インタクション」と言い、人と関わることで目的を達成するテクノロジーです。
つまり、一台でなんでもできるような「強いロボ」ではなく、人の手を借りて、協力して何かを達成する。言ってしまえば一台では何もできない「弱いロボ」です。

しかし現実では、一台でなんでもできる「強いAI」は実現に至っていません。もっといえば、複数のことさえも難しい段階です。
人間に近い思考力や判断力、人間の手足と同じような働きを持ったパーツなどはとてもハードルが高いのです。
ところが、人の手を借りる「弱いロボ」であれば、技術的なハードルを下げることができます。

モゾモゾするロボット

例えば、豊橋技術大学が開発したゴミ箱ロボットは人の手を借りてゴミ掃除をします。

どういうロボットかというと、20Lサイズのゴミ箱にゴミを探すセンサーとそこまで移動する車輪がついている見た目です。
そして、それ以上の機能はついていません。なので、ゴミを発見したらゴミまで近づいていくだけです。
アームのようなものが出て、ゴミを自ら拾って捨てるわけではないのです。
その代わり、ゴミまで近づいたら、まるで困っているかのようにモゾモゾとした動きをするのです。
まるで、どうしていいか分からないで、誰かに助けを求めるように周りを見渡す子供のように見えてきます。

そうすると、モゾモゾと困っている姿をみた人が「かわいそうだな」と思い、「助けてあげよう」という気持ちになって、ゴミを拾って捨ててくれるのです。
そして、ゴミを捨ててもらうと、小さくお辞儀をしてくれます。

こうして、「ゴミを発見して近く」だけの技術ですが、人の手を借りる事で、技術的なハードルを超えることができるのです。
筆者は、この「弱いロボ」というアプローチでドラえもんを作ろうと研究しています。

実際、僕らが知っているドラえもんは何でもこなせるスーパーコンピューターではなく、寝ている間に耳をネズミに食べられるような、ちょっと抜けている猫型ロボットという印象ですよね。

参考記事:人に頼る「弱いロボ」 豊橋技科大教授、岡田美智男さん

「ミニドラ」としりとりをする。

筆者、研究の中で「ミニドラ」を作り、自然言語を話さないロボット、つまり「ドラ」「ドラら」「ドラドラ」など、本当にミニドラと同じように喋るプログラムを作り、完璧に言語を操ることができないシステムというコンセプトのロボットとしりとりをする実験を行いました。

「ド」と「ラ」しか話せないプログラムとしりとりができるのか?と思いますが、人間側がプログラムの言いたいことを予測して、尋ねながらしりとりつ続けるという形で、しりとりが出来たのです。

例えば、人間が「りんご」といえば、ミニドラは「ドララ」と返します。
最初は何を言っているか分からない人間が「ごんた?」と尋ねるとミニドラは「ドラァ?」と生返事します。そして、人間が「ごりら、って言ったの?」と尋ねると「ドラドラァ!」と正解だ!と意思を伝えます。
そうやって続けているうちに、人間側もスムーズにミニドラの意図を読み取れるようになり、3分ほどやりとりが続いたようです。

そして、この研究はドラえもんを実現させるに当たって、役に立つロボットという「道具」になるロボットではなく、失敗しながら共に学習していくロボットという存在から始めて、人と関わりながら成長することで、精度が高まり、やがて人の心がわかり、上手にコミュニケーションが取れるようになり、人を助けてくれるロボットに到達した時、「ドラえもん」ができるのではないか?と筆者は考えます。

つまり、ミニドラという人間のような言葉を喋らず、身体的にもできることが少ないような「弱いロボ」をみんなで育てていくことで、最終的にドラえもんが出来上がる。という考えです。

閑話休題-なくなる仕事。ではなく、なくなる業務

テクノロジーによってなくなる仕事について、なくなる代表的な会計士と科学者が「会計士の仕事はAIに奪われるのか」というテーマでディスカッションを行ったところ、
「会計士の仕事はなくならない」という会計士側の主張と「会計士の仕事はなくなる」という科学者側の主張が全く噛み合わない状態がずっと続いていました。

話が噛み合わない原因は、会計士はAIが何ができるのか分からないまま、「自分たちの仕事は無くならない」と主張し続け、科学者たちは、会計士の実際の業務をほとんど知らずに「仕事はなくなる」と主張し続けていたことが原因でした。

そこで、話を噛み合わせるために、お互いのこと理解するところから始めました。
実際に会計士の仕事を一つ一つ伺い、それぞれの仕事について「これはAIでできる」「これはAIで出来ない」という風に振り分けて行ったところ、科学者が知らなかったような、人同士の関係が重要な仕事たくさんあったことに気付き、会計士の「作業」は代替出来ても、会計士「自体」をAIが代替することが難しいことがわかってきました。

そもそも「AIによってなくなる仕事」という激震を起こした発端は、マイケル・A・オズボーン准教授という科学者による論文が始まりです。
科学者と会計士のディスカッションで見た通り、科学者は「なくなる」と主張している仕事について細かくは知らないのです。

だから、なくなると言われている多くの仕事は、正確になくなる仕事ではなく「なくなる業務」が正しいのではないかと思います。

データの打ち込みなどの誰でもできる作業は真っ先にAIに代替わりしてしまうかもしれませんが、クライアントとの密なやりとりや重要な意思決定はAIが代替わりすることは難しいでしょう。
所詮AIは月並みのことしかできません。今まで集めたデータをもとにしたベターな処理を行うのがAIです。なので、前例のないことに対してはベターな処理を降せません。
結果的に残っていく業務は、ベターな決断ではなく創造性を兼ね備えたベストな決断をするという業務でしょう。

会計士と科学者とのディスカッションは最終的に、
「事務作業の仕事が減って、人と向き合い、人を助ける仕事が増えていく。という理想的なシナリオになるのではないか」という前向きな話でまとまったそうです。

助け合いが作り出す未来

筆者が作り出そうとしている「ドラえもん」は人と手を取り合って生きていくテクノロジーです。
それは「弱さ」を伴っています。しかし、その弱さは僕らに親しみを感じさせます。

そんな親しみを感じさせるような「弱いロボ」という技術は日本が世界で最も進んでいる技術です。
AIに関しては世界に遅れをとっているかもしれませんが、「弱いロボ」という技術、つまりHAIは日本がリードしています。

例えば、HAI分野の論文採用率は40~50%くらい。つまり、2本に1本通るかどうかという難易度で、中堅クラスの難易度と言われています。
そして、そのHAIの国際会議で通った論文の半数は日本なのです。

HAIという研究分野は日本から始まり、日本が世界に広げている技術です。諸外国が日本を追いかけているようですが、やはり日本が強いのです。
これは、この分野が日本的な発想が生きる研究分野だからです。

日本は良くも悪くも他社の目を気にして生きています。「空気を読む」という考えも日本独自の感覚です。
こう言った感覚は、他者との関わりのなかで自分を意識するという考えで、この感覚がまさに、人との関わりを強く意識するHAIの分野といえます。

筆者は、他人との関わりをいつも意識している国は、人との関わりを前提としているHAIの技術が発展しやすいと考えています。

だから、他者との関わりを前提としている国である日本は今後も、HAIの分野でリードし、人と手を取り合うテクノロジーを発展させ、筆者のような研究者たちがいつか本当に「ドラえもん」のような存在のテクノロジーを生み出し、僕らの生活に寄り添う事で、世界を幸せにするロボットができるかもしれません。

余談ですが、僕の幼稚園の頃の夢は、ドラえもんを作る事ではなく、ドラえもんになる事でした。
僕も子供の頃からドラえもんを観て育ってきた世代なので、そんな未来がくることを楽しみにしています。

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